「小児の急性中耳炎」について
2005年07月01日
小児の急性中耳炎は、就学前の約3分の2のお子さんが1度はかかると言われるとてもポピュラーな病気です。抗生剤の進歩により1980年代には比較的容易に治る病気と考えられるようになりました。しかし近年は逆に、とても治りづらくなっており、しっかりとした治療が必要です。そこで今回、ぜひ小さなお子さんのいるご両親と、お孫さんを預かる機会の多い祖父母のみなさんに、知っておいていただきたいことをQ&A方式でまとめてみました。
Q)急性中耳炎とはどんな病気ですか。
A)中耳に細菌やウイルスが入り、急性の炎症がおきて膿がたまる病気です。中耳には鼻の奥に通じている耳管<じかん>が開いています。細菌やウイルスが耳管を通って中耳に入ると、中耳の粘膜に急激に炎症をひきおこします。このように、中耳炎は風邪をひいたときなど、鼻やのどの炎症に引き続いておこることが多いのです。
Q)年齢との関係はありますか。
A)小学校の入学までに、約70%の子どもが一度は急性中 耳炎にかかるといわれています。特に3歳以下に多く、その理由として以下のようなものが挙げられます。
(1) 子どもの耳管は大人にくらべて太く、短く、さらに角度が水平に近いので細菌やウイルスが中耳に侵入しやすい
(2)全身の抵抗力やのど、鼻の粘膜の抵抗力が未熟なため、風邪をひきやすい
Q)どのような症状がでるのですか。
A)はげしい耳の痛み、発熱、耳だれ(耳漏)、難聴、耳がつまった感じなどがおこります。乳児などでは痛みを訴えられないために、機嫌が悪くぐずったり、しきりに耳に手をやったりすることがあります。
Q)どうやって診断するのですか。
A)耳鼻科医が鼓膜をみて、鼓膜が赤かったり、はれていることを確認します。また、鼓膜の奥の中耳に膿がたまって、ふくれているのが観察できることもあります。
Q)どのような治療をするのですか。
A)軽症の場合は抗生物質や消炎剤などの服用、点耳薬で 保存的に治療します。しかし最近、抗生物質に対して抵抗力を持った細菌(薬剤耐性菌)が原因の急性中耳炎が増えており、そのような場合は通常内服量の1.5〜2倍の抗生剤を投与する場合もあります。また重症になると中耳に膿がたまって鼓膜が腫れて、強い痛みと高熱が続くようになり、その場合は鼓膜に麻酔をして痛みを取り除いてから鼓膜を数ミリだけ切って、たまっている膿を出す治療(鼓膜切開術)が必要となります。さらに反復性中耳炎といって急性中耳炎を何回もくり返す場合には、頻回の鼓膜切開術が必要になることもあります。鼓膜は切っても通常数日でその穴はふさがりますので、たいていは鼓膜に穴が開いたままになる心配はありません。耳漏が多い場合は耳の中の洗浄や消毒治療が必要になります。また、特に乳幼児では、これらの治療を行っても改善しないことがしばしばあり、入院をして抗生物質の注射が必要になることもあります。
Q)急性中耳炎は治りますか。
A)以前はきちんと治療をすれば、ほとんどの場合は短期間で完全に治りました。しかし近年、特に3歳以下の乳幼児で中耳炎は治りづらくなっており、抗生物質の投与や鼓膜切開術を繰り返しおこなっても鼓膜の奥の中耳というところに滲出液が貯まって難聴になる滲出性中耳炎に移行したり、反復性中耳炎になって発熱と耳漏を繰り返すようになってしまうこともあります。このような場合は、鼓膜に小さなチューブを留置する治療(鼓膜換気チューブ留置術)が必要になることもあります。また、途中で治療をやめてしまうと、滲出性中耳炎や反復性中耳炎、慢性中耳炎に移行してしまうことがあります。いずれにせよ、耳鼻科で完全に治ったといわれるまで、きちんと治療をうけることが重要です。
Q)中耳炎にかからないよう、ふだん気をつけることはありますか。
A)鼻やのどに炎症がおきて、鼻汁や咳・たんが出る状態が長引く時は、耳鼻科で治療をうけるとよいでしょう。また、鼻は『片方ずつゆっくりとかむ』ようにしてください。乳幼児では市販の鼻水吸い器でこまめに鼻水を吸ってあげることも有効です。さらに、風邪をひいたときはできるだけ保育園は休んで、お互いにうつさないようにすることも大切です。
小児の滲出性中耳炎と反復性中耳炎については次の機会に詳しくご説明したいと思います。